HOME>実験紹介>理科室向け>EL002 トラウベの人工細胞
ドイツの植物学者トラウベは,1864年にヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム結晶と硫酸銅水溶液を使って,後に「トラウベの人工細胞」と呼ばれる実験を発表しました[1].半透膜の性質を紹介するのに良い実験となっております.
この実験では銅イオンを含む水溶液を使用します. 実験終了後の廃液は, 事前に処理方法を確認しましょう.
ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸銅膜の持つ半透膜性を利用した実験です.膜の内側に水が浸透することで袋状の膜が緊張→破裂し,漏れ出た液界面で新たな膜ができる.という反応が繰り返し起こることで,まるで生き物が成長しているかのような不思議な現象を観察することができます.同様の原理を用いた実験に「ケミカルガーデン」がありますが,成長に日数がかかることと後処理が面倒なため生徒実験には不向きでしょう.しかしトラウベの人工細胞ならば10分〜15分ほど十分に成長し,後処理もケミカルガーデンほど大変ではないため授業時間内に実践できるのではないかなと思います.

使用器具および試薬
使用器具
バイアル瓶もしくは試験管等のガラス容器
使用試薬
硫酸銅(Ⅱ)水溶液(濃度は「ポイント」欄にて)
ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム(結晶粒)
実験準備
準備できるヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムが粉末の場合は,再結晶させて粒状にします.
硫酸銅(Ⅱ)水溶液の濃度によって反応に違いができるので,比較して実験する場合は濃い水溶液を用意して,適宜希釈するのがおすすめです.
実験方法
硫酸銅(II)水溶液をガラス容器に注ぎ,ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム粒を入れる.
粒を起点に人工細胞が成長する様子を観察する.
ポイント
以下の動画は0.5 M, 0.25 M, 0.1 M硫酸銅(Ⅱ)水溶液のときの様子をタイムラプスで15分間撮影したものです.硫酸銅(II)水溶液の濃度によって人工細胞の成長速度が違うので,濃度と浸透圧の関係を考えさせる授業にもいいかもしれません.
ここで紹介した実験法のほかに,硫酸銅(II)の代わりに他の金属塩の水溶液を使って顕微鏡で観察する例[2]や阿膠と鞣酸(タンニン酸?)を使った例[3]などがあるので,気になったら下記参考をチェックしてみてください.
余談ですが,この実験をはじめて行った時に間違えて3価の鉄塩を使ってしまって,面白そうなので二日間そのままにしてみると茶色の物体が棒状に伸びていました(人工細胞かは不明).しかも結構丈夫です.



ドイツの植物学者ペッファーは,ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸銅膜が半透膜であることを利用して浸透圧の測定実験を行いました.この測定結果は後に「ファントホッフの法則」発見につながります.トラウベの人工細胞はそのままでは脆いため,素焼き筒に生成させて実験します.今回は[4]の実験方法をもとに,文献で用いられたダニエル電池用の素焼き筒より小さいサイズで実験しました


使用器具および試薬
使用器具
ダニエル電池用素焼き容器(ナリカ製,Sサイズ)
200 mLビーカー(素焼き容器が十分収まる容器)
ゴム栓
ガラス管
減圧装置
使用試薬
2 M 希塩酸
0.3 M ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム水溶液
1 M 硫酸銅(Ⅱ)水溶液
食紅で色付けした50 % 砂糖水
実験方法
ビーカーに素焼き容器を納め,2 M 希塩酸でビーカーを満たして減圧し,素焼き容器の微細なごみを洗浄する.その後,希塩酸を純水,0.3 M ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム水溶液の順に取り換えて減圧する.

1 M 硫酸銅(Ⅱ)水溶液を別のビーカーに入れ,素焼き容器を沈める.素焼き容器を取り出し,軽く水洗いする.この時素焼き容器の壁面が暗い茶色だったらヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸銅膜ができているとみなせる.

素焼き容器内を砂糖水で満たして,ガラス管を通したゴム栓を取り付ける.このときの圧でガラス管内の砂糖水が押し上げられる.ガラス管の液面に印をつけ,水の入ったビーカーに入れて10分待つ.

10分後,上昇したガラス管内の液面から,あらかじめつけておいた印までの長さを測る.

ポイント
文献[3]の方法では水柱の上昇値が大きいですが,これは大きめのダニエル電池用の素焼き筒を使っていて,容器外の水が内側へ流入する面積が大きいためと考えられます.
ゴム栓をはめる際に力を入れすぎてしまうと,素焼き筒が割れてしまうので注意してください.
実験例2で紹介した方法で使うダニエル電池用の素焼きコップは,ひとつ2000円弱と数を揃えにくいという欠点があります。そこでその代用として,ダイソーの素焼き鉢で代用してみました。この方法で作った素焼き容器はひとつ約73円とお手軽なのでおすすめです.
必要なもの
素焼き植木鉢(直径約8 cm)
素焼き植木鉢皿(直径約7.5 cm)
耐水性のある強力接着剤
500 mLビーカー(素焼き容器が十分収まる容器)


作成方法
素焼き鉢の細口にガラス管が通るか確認します.もし通らなければドライバー等で削って口を広げましょう.

素焼き鉢の広口を素焼き皿で塞ぐため,接着剤で2つをくっけます.接着剤が硬化したら完成です.あとは実験例2の実験手順に従って素焼き容器壁面に膜形成させます.

ポイント
浸透圧の測定をする際は,素焼き容器内を溶液で満たしてからゴム栓を取り付けたガラス管を挿入し,輪ゴムで固定します.このとき固定が甘いと,測定中にゴム栓と素焼き容器の間にできた僅かな隙間から溶液が漏れ出てしまい,水柱の上昇が遅くなります.



また,膜形成した素焼き容器は,乾燥して1日経っても実験ができます.
参考
[1] 豊田太郎,“人工細胞の化学 ” 化学と教育,70(12),2022,578-581
[2] 二宮章夫,“顕微鏡を使用した化学実験(Ⅲ)ーフェロシアン化物の半透膜ー ” 化学と教育,40(1),1992,50-51
[3] 白井光太郎,“植物病理學講義” 植物學雑誌第二十一號,2(21),1888,214-219
[4]原成介,“浸透圧実験器(使ってみよう理振機器 (15))” 化学教育,33(4),1985,318-319
その他参考
・岩田久道,“死海の水から豆腐・トラウベの人工細胞ー濃度の効果的な授業展開ー” 化学と教育,55(4),2007,172-175
・小林邦佳,“半透膜の性質に関する実験” 化学と教育,59(5),2011,262−263
